刻の監視者(序) / ねこまたぎ 忍者ブログ

ねこまたぎ

「木葉日」の徒然

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ちらしと同じTIME設定で。
はじまりのエピソードかもしれませんがまだかたまっていない

 カカシは商店街で目的の店前に立ち、左腕の甲冑を外した。前腕の内側に、上皮を透かし、チャクラで光る数字が明滅している。生まれ故郷の隠れ里で、忍びとして登録したその瞬間から動き出した体内時計だ。
 留まることなく動く数値はチャクラの残量であり、生の残りだ。また数値はそのまま忍びの通貨でもある。任務の報酬もチャクラなら、衣食住に掛かる費用もチャクラで賄っている。
 里内に住む一般住民は、商人に限らず、農民、技術者各々いて、彼らは火の国の大名に生活の保障をされ派遣されている。民間人は、忍びらに必要最低限の人らしい日常を遅らせる為の大道具のようなものだ。衣食住に関わる物品をチャクラと交換で提供し、その収益を火の国で通常通貨に両替している。
 コーヒー豆も提供する茶屋の窓口でカカシは左腕を差し出し、腕の半分が埋まる鋼鉄の機械にのせる。
「いちばん香りの良い豆がいい。五百グラム」
 カカシの依頼に、五百グラムなら百ちょうどだね、と呟いた店主が量りに紙袋をのせ杓子で煎った豆をざらざらと載せる。五百グラムきっかりの袋を綴じると、カカシの腕ののった機械のスイッチを入れる。ちょうど百の数字まで機械に表示された目盛りが動き、止まる。カカシの持つチャクラが急激に百、目減りした。その後は文字通り時計の如く、カカシの腕の表示は一秒ずつの減少に戻る。
 カカシは機械から腕を下ろすと店主からコーヒー豆の袋を受け取った。
 毎度、と言った店主はむっつりしていて愛想はまるでないが、忍者相手に料金の不正を働くことはない。ましてカカシは面付きの特殊部隊員だ。隠れ里の頂点、火影直属のエリートにそんなことをすれば命がないことは承知なのだ。
 またこういった民間人から、里内にある忍者アカデミーに入学したいと希望する子供も時々はいて、それを火の国も禁じてはいなかった。運と才があれば自分も親もいずれ億万長者だ。
 自分の子を特別上忍以上の忍びと契らせたい輩も少なくない。力ある忍びと縁故が結べれば、それもまた民間人にはその忍びが生きている限り裕福な生活が約束されている。
 馴染みの茶屋をあとにして塒に向かう途中、カカシの鼻腔に動物性とわかるスープの匂いが入り込んでくる。
 なかなか食欲を誘う香りである。そう空き腹でもないのに食指が動く。匂いのする方に足を向けかけた。が、ふいに肩に舞い降りてきた小鳥に止められた。
 里を統べる火影からの任務命令だった。
「……ま。そのうちに」
 またいつか匂いの元を辿れば良い。
 大きなへまさえしなければカカシの時間はたっぷりあった。膨大な時間とチャクラはカカシが自ら実力で勝ち得たもので、その才は父親から受け継がれたものだった。容姿もかなり似通っていて面を取って素顔を曝せば年長者は『白い牙』の亡霊をカカシに視るようだ。
 だが忍びの素質や顔かたちは似ていようとも、カカシが父親とはまったく別人であるのを証明するように、カカシはチャクラの管理を徹底していた。生前、父親は敵味方に関わらずチャクラを惜しげもなく与える忍びであったが、カカシは同情や憐憫でチャクラを譲りはしない。任務に必要となれば味方の救命はするが、任務に必要なければ同胞にも分け与える必要はないと割り切っている。
 第一、幾ら膨大なチャクラを有していても、忍ならば死の淵はいつでも足元に口をあけている。異名で呼ばれた父親も、情の厚い仲間達も、史上最年少で火影となったカカシの師匠も、みな時とチャクラを失い死んでいっただろう。
 そんなシビアな考えの持ち主だからなのか、カカシは気がつけば特殊部隊に配属されていた。特殊部隊はチャクラの不正な譲渡や奪取の取り締まりも仕事のうちだった。
 火影の放った鳥に誘導され、町をひと飛びに横断した。繁華街の裏手に着地して、大人の男一人、子供一人が睨み合っている現場を確認した。
 大人は大柄な中忍だ。子供は黒髪を後ろに一つにくくった下忍だ。中忍の方が子供を追い詰めているのは明らかで利き手に携えたクナイには僅かに血糊がついていた。下忍の左腕を覆う忍服の袖口が裂かれている。
──血迷ったか。
 不当な奪い合いが横行しない、とちまたでは評判の木の葉の隠れ里が聞いて呆れる。実情は他里とそうは変わらなかった。生きたいがために任務の報酬以上のチャクラを、弱者から巻き上げようとする輩が皆無ではないのだ。他里と違い、こそこそしている分、より卑しいではないか。
 それにしてもこの下忍は泣き叫びもせず助けを請いもせず、ただ搾取者を睨むばかりで抵抗らしい抵抗をした様子がない。足元の地面は荒れてはいないし、忍具のひとつもかまえず、忍術を行使したチャクラの残像もない。中忍との歴然とした力の差にもう諦めているのか、それとも勝算があって様子を見ているのだろうか。
 カカシはせいぜいアカデミーを卒業したてだろう下忍の、年齢相応の階級の割には相当に気の強そうな両眼を覗った。丸く黒々とした眼が瞬きをも拒み、年上の中忍を睨み上げている。その眼差しが怒りばかりでなく悲観に暮れていく。下忍の鼻を横に切る傷跡がだんだんと歪む。少しずつ変化する表情が、泣き顔に近いものになっていくのは、自分の生が絶たれるからではないのだろう。
(情けない……か)
 カカシも醜態を曝す忍びが年上ならば、落胆は深い。
 中忍は我欲にばかり走り、年少者に憐れまれていることに気付かずにいるのだろう。カカシが到着してから一歩、また一歩、民家の塀に子供を追い詰めていく中忍の愚かしさに辟易し、携帯していた吹き矢を飛ばしていた。
 中忍の項部に小さな鏃が突き刺さり地面に倒れるまで僅か二秒だった。
 カカシは眼を見張り固まっている下忍を他所に犯罪者を担ぎ上げる。捕らえた大人の体重の重さに修行を怠っている者特有の無駄な脂肪層を感じて、これにもがっかりする。
「あの……暗部さん、ありがとうございました。でもその人どうなりますか?」
 被害者のメンタルフォローはカカシの仕事ではない。襲ってきた相手の処分を気にする下忍の心中もカカシには無関係なことであった。
「俺の知ったことじゃない」
 つい応えてやったのは、下忍の黒々とした眼が礼を言いながらもカカシに非難めいた視線をぶつけてきたからだ。役目を果たしたカカシは、この下忍にとっては救助者に値するだろうに、そんな目付きを向けられる筋合いはない。苛立ちはそのまま荒げた声になる。
「秩序を守れぬこいつがどうなろうがおまえに関係ないだろう!」
「火影様にお願いして、助けていただくわけには──」
 食い下がる子供に呆れ応える気も失せた。襲われたくせにたいした偽善者だ。
 ただ左腕の切り傷は気になって素早く目線を走らせる。
「こいつの心配より、自分の負傷はどうなの」
 これでもつけておけ、とカカシが投げつけたのは切り傷の特効薬だ。暗部仕様、即効、無臭の優れもので血臭も隠す。
 円柱の容器は、下忍の無傷の右腕が受け止めた。動いた弾みで下忍のまだ細い腕から血潮が数滴飛んでいた。
 傷の深さも確認せず、罪人の心配などしている場合ではないだろう。
 下忍とはいえ、仮にも一人前の忍びだ。手当てにまでは手を貸す必要はないと判断して、カカシは火影邸へと引き上げた。
 跳躍する瞬間、下忍に深々と頭を下げられた。


 そんな日常任務の翌日、カカシは黒瞳、黒髪の下忍の名を知った。火影邸に現れたのだ。予想はしていたが自分を襲った中忍の命乞いである。
「イルカよ、それはならん。許せば罪が罪でなくなってしまうであろう」
 里長のげんなりした口調も想像通りで、やっぱりこいつ頭が悪いよくアカデミーを卒業できたものだとカカシは天井裏に張り付いたまま感心した。
 だいたい火影に直談判するとは下忍にあるまじき図々しさだ。カカシとて(……先のことはわからぬが)まだ火影には直接逆らったことはない。
 すごすごと退去したイルカという名の下忍を見送ったカカシは、里長の深刻そうな溜息を拾う。
「カカシよ、覚えておけ、あやつはおぬしの父親に勝る要注意人物じゃ」
 火影の言葉は嫌味でも皮肉でもないようだった。
「少なくともサクモはチャクラを惜しむ必要もないそれだけの力があった。しかしのう……」
 うみのイルカは違う、と言い切った老人の声は嘆きと取れた。
「じゃ、長生きしませんね」
 カカシは一言だけ応じると待機場所へと退散したが、己の発した言葉は非常に後味が悪かった。不味いものでも食らったように咥内が苦く、またそう感じる自分が不可解でならなかった。

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