刻の監視者7 / ねこまたぎ 忍者ブログ

ねこまたぎ

「木葉日」の徒然

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※映画『TIME』ネタでカカイル。

 イルカのチャクラを奪ったくのいちは、イルカの時間を奪っておきながら虫の息だった。
「とどめは刺していない。息があるうちに取り戻せ」
 暗部が言う。
 イルカはこの命令を理解できていた。生きている忍だからこそチャクラを保っていられる。屍になればチャクラは消え、イルカが奪われた分も無となり取り返せない。
 イルカは暗部の指示通り、背部を袈裟懸けに切られたのくの一に向け手を伸ばそうとした。そうするべきなのだ。
 だが身体は意に反し、四つに這ったまま動かなかった。
 くの一の背部からの流血が畳にじわじわ広がりイルカのいる場所まで迫る。喉からは気体をやっと吸い込んだような隙間風に似た音がしている。どんより濁った眼球は恨めしそうに宙を、いやイルカを睨んでいるようだった。
 イルカは死に際の忍の有様に見入ってしまう。まるで憧憬するものに心を奪われたかのように。
 惚けていると暗部の舌打ちが耳元で鳴っていた。
 暗部は動かぬイルカの代わりにくの一の手を掴み、一気にチャクラを吸い取っている。暗部が放り投げた鍵爪が畳みを転がりそれが止まらぬ内に、カクリとくの一の頸が下へと折れた。
 直後、怒鳴られている。
「手を出せ、はやくっ!」
 イルカは左腕を強く引かれた。上半身が上肢ごと捻られた。熱い液体を注がれるように命が戻される。暗部がもたらす高速の数字の変化はイルカが目を見張ろうと追い切れない。ただ彼が自分と繋がり刻を注ぐこの感覚は、例によって熱過ぎて、それゆえにイルカの中の希薄な何かを満たしていく感じがした。
「刺客が混じってたの気がつかなくて悪かったな」
 暗部は悔しそうに謝ってきた。
「あの人、先輩さんの好きな女の人じゃ」
「……のわけあるか。本物を殺して入れ替わってた」
「そうですか。刺客って、任務中でもないのにどうして?」
「まぁいろいろある。大人の事情で」
「いろいろって?」
「率直に言うと里の中には三代目の反対勢力がいて、そいつらは三代目側の忍を減らしたいんだ」
「そんな話、俺も耳にしたことはあります」
 イルカは溜息をついた。深い深い息が自然に気道から洩れる。また生き長らえた、そのことに対する安堵のためではなかった。銀髪の少年に、急所の一つである左腕を捕らえられている。今はそれだけがイルカを惑わせ、酔わせているのだった。
「おかしな奴。興奮したままだ」
「え?」
 暗部の面越しの視線を悟り、殆ど裸体の自分を視た。そうしてまだ半勃ちの性器に赤面する。
「見てたぞ、くの一にチャクラ吸い取られても勃ってた。おまえ寿命を引っこ抜かれて気持ちいいのか? それとも純粋に女の手がよかっただけか?」
 どっちだ、と冷ややかに問われてイルカは即答できない。チャクラを奪われることが性的な官能に繋がるとは考えたことがなかった。その前に、暗部に手を握られチャクラを譲られる感覚でこそ興奮していたと思うのだが、そんなことを口にしたら荷物扱いどころか、不埒者扱いになり、もっと不興を買うような気がした。
「試してみるか。まずは自分の腕を見てろ、時間の残量を」
 言うなり暗部は注いだばかりのチャクラをグイグイ吸い取っていく。ごっそり搾取されるのは今日はこれで二度目であった。なんと忙しい日だろうか。
 暗部は奪うのも与えてくる以上の速さであった。イルカは目まぐるしく減る残量に息を飲んだ。
 あっという間に残り時間は二十四時間を切っている。このまま奪われれば絶命まであと数分、そこまで見届けながら涙腺が弛んだ。眦から熱い雫がこぼれていく。哀しいのでも恐ろしいのでもない。そんなことを分析する間もなく、腕の熱さや痺れがやけに心地良く、目減りする数値を見守る視覚自体でのぼせ頭がくらくらした。
 同時に痛む箇所を感じて微かに喘ぐ。暗部が胡坐を崩し、イルカを仰向けにひっくり返し、そうして右手で硬く膨張した性器を握り込んだからだ。
「……やっぱりか。おまえ完全にマゾ」
 呆れ果てた声を投げられても、イルカは平常心に戻れなかった。面白い玩具でも弄ぶように暗部の右手の白い指が性器に絡んだままだったし、なによりもジリジリと数値の減る様を見ていると、悪い媚薬でも盛られた様なそら恐ろしいほどの痺れが全身に広がっていく。
「お…、おれ、おかしい?」
 掠れた声で問い身じろぐと、イルカの先端が暗部の手を内側から擦った。
「まー、世の中にはセックスの時に頚締められて窒息寸前に追い込まれないと昇天しないとか、鞭打たれないと感じないとか、多種多様な変態がいくらでもいるからべつに驚きはしない。どだい俺の親父なんか尊敬してるとこからしておまえはおかしい。かわってる。それは仕方ないとしても、厄介なのは──」
「せ、せんぱいさんこそ、へんっ、おか……なんでっ、おれの」
 どうしてどさくさ紛れに暗部はイルカの雄芯を握り、しかも射精を促すような力を加えているのか。しかも自分たちのすぐ隣りには敵の屍が転がっていて部屋には血臭が充満しているのだった。まさかこんな状況下で暗部は同性のイルカとしたくなったというのだろうか。
 イルカが混乱したまま狗面を仰ぐと、あーこれ? と呑気にも間延びした返答が返る。
「だからー、厄介だって。チャクラ目的で襲われるたび感じてたら幾らチャクラがあっても足りない。そうじゃなくて、ちゃんと触感で気持ちよくなれっていうか……」
 のんびりした口調とは裏腹に手の動きは早くなり濡れた音が間断なく反復する。
 イルカは思わず呻いていた。暗部の手の動きよりも、左腕に光る、あと数分の余命表示にズクリと疼いて耐えられなかったのだ。
 鉄の匂いの中に、自分の放つ性臭が増したのを暗部は気付いただろう。白い指で作られた輪の上下運動がひたりと止まった。
「おい……もうチャクラの残量見てよがるなよ、俺の手を見てろ」 
 咎めるようにたぶん指先で先端を弾かれ、鈴口に溜まっていた雫が腹の上に飛んだようだったが、イルカの視線はいたぶられる性器よりも、ジリジリと減り続ける左腕の数値に釘付けになっていた。
 もう聞き慣れてしまった暗部の舌打ちが遠くで鳴った。終りまでの秒読みが始まった途端、直接の刺激も受けないまま白い精が散った。
 もっとも最後の一秒で暗部にまたチャクラを一気に戻されたので、絶頂がいずれに左右されたのかイルカにはわからなかった。
 はっきりしていたのは、暗部の手指に促されたのではなかったことである。
 その事実が意外に若い獣を傷つけたことをイルカはその時は察することができなかった。

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